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福岡地方裁判所小倉支部 昭和48年(ヨ)456号 決定 1974年3月28日

申請人

全日本港湾労働組合

右代表者

兼田富太郎

申請人

全日本港湾労働組合八幡支部

右代表者

一ノ瀬淑行

右両名訴訟代理人

谷川宮太郎

外三名

被申請人

日鉄運輸労働組合

右代表者

宮本進

右訴訟代理人

阿部明男

主文

本件仮処分申請はいずれも之を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

申請人らは「一、別紙第一目録記載の建物及び同第二目録記載の備品に対する被申請人の占有を解き、福岡地方裁判所小倉支部執行官にその保管を命ずる。二、執行官は申請人らに前項建物等の使用を許さなければならない。この場合において執行官はその保管に係ることを公示するため適当な方法をとらなければならない。三、申請費用は被申請人の負担とする。」との裁判を求め、被申請人は主文同旨の裁判を求めた。

本件疎明資料により一応認められる事実関係は左のとおりである。即ち、

一申請人全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という)は昭和二一年七月全国の港湾関係労働者が加入する単位組合七八の連合体(組合員数合計二万八〇〇〇人)として結成され、全日本港湾労働組合同盟と称し、北海道、東北、東海、大阪、四国、九州に地区協議会を置いたが、昭和二四年五月開催の右同盟第四回定期大会において規約を改正し、単位組合加盟の連合体組織から個人加盟方式一本の単一組合組織となり(但し当時既に加盟中の単位組合について新に所属組合員の加入手続等の措置は全く講じていない)、名称も現行の「全日本港湾労働組合」と改め、法人格を有し、組織として、中央本部、地方本部、支部、分会を有するものであるところ、その組織の実態は、形式的には規約上個人加盟方式の単一体であるのに対して、例えば昭和三〇年神戸港湾労働組合を組合単位で加入させたり、まず支部組合員の氏名、実数等の正確な把握がない等組合連合体の性格を色濃く残すものであつた。

二昭和二三年当時、日鉄八幡港運株式会社にはその従業員を中心として組織された日鉄八幡港運船舶組合と日鉄八幡港運従業員組合なる二組合があり、いずれも単位組合として当時の全日本港湾労働組合同盟に加入し、前者は全港湾労働組合八幡船舶支部、後者は全港湾労働組合八幡従業員支部と称したが、昭和二八年五月前者は組織内の対立から分裂し、その後、後者に統合されて消滅し、後者は翌昭和二九年その名称を全港湾労働組合八幡支部(以下「旧八幡支部」と略称する)と改めた。

しかして旧八幡支部は、法人格はないが、独自の、組合規約、会計、執行機関及び決議機関(大会、支部委員会、執行委員会)を有し、組合員資格について、加入脱退の手続を了えても之をその儘全港湾中央本部に送付することなく、単に中央、地方本部に対する上納組合費算出のための基礎数値としての員数(これも実数を遙かに下廻る)の変動を報告するに止まり、全港湾中央本部としては、昭和二四年五月の規約改正による単一化の前後を通じて個々の支部組合員の名簿も備えず、その正確な氏名、員数さえ知らないまゝ推移し、また会社との団体交渉、労働協約の締結等組合活動の一切は支部独自の判断により決定執行され、全港湾の中央、地方本部の指導監督は殆ど行われず、僅かに年一、二回程度、年末手当、春闘交渉の際、中央本部の役員が交渉の場に列席するにすぎなかつた。

三昭和四八年一二月六日現在旧八幡支部の組合員実数は一六二一名(但し全港湾中央本部に届出た員数は五八〇名)であつたが、昭和三五年八月以降母体企業である日鉄運輸株式会社の企業態様の変化に伴い、旧八幡支部組合員の職種も多様化し、港湾関係労働者数は全組合員の三割程度に過ぎず、その余は港湾関係以外の陸上荷役輸送等に従事する労働者であり、港湾労働者の組織体である全港湾と旧八幡支部全体とは労働運動の方針、態様等において必ずしも軌を一にするとはいいがたい種々の状況を生ずるに至つた。

しかして旧八幡支部は昭和四八年一〇月一一日組合員全員の多数決(賛成一三四一、反対一二七)により「上部団体組織への加入、脱退」について之を大会の付議事項から支部委員会の付議事項に規約を改正した上、同年一一月二八日支部委員会において同支部が全港湾から脱退することを賛成五一、反対四で議決し、同年一二月六日支部規約により全員投票を行い、賛成一三九九、反対一三九により旧八幡支部が全港湾から脱退することを決議し、その旨全港湾中央、地方本部に通知し且つ中央本部に対し個人加盟方式の規約を尊重して個々の組合員の脱退届合計一七三六通を送付すると共に組合の名称を「日鉄運輸労働組合」(以下「被申請人」と略称する)と改め、同時に組合規約を改正し、新執行部を選出し、組合活動を継続したが、その実態は全港湾脱退前の旧八幡支部と殆ど変りがない。

そして組合員数は、旧八幡支部が全港湾脱退時一、六二一名であつたのに対しその後若干増加し、被申請人組合の組合員数は、昭和四八年一二月末日現在一、七八五名を数える。

四之に対し旧八幡支部組合員中全港湾からの脱退に反対する組合員二六名は全港湾の中央、九州地方本部と共に被申請人組合の全港湾脱退決議を無効であるとし、旧八幡支部の存続を主張し、自ら「全日本港湾労働組合八幡支部」(以下「申請人八幡支部」と略称する)と称して執行部を選出し、全港湾の支部組織としての活動を続けている。

なお旧八幡支部組合規約第二四条第一項によれば、組合員は議決に服すべき義務を負担している。

五ところで別紙第一目録記載の建物と同第二記載の備品は昭和四〇年頃旧八幡支部組合員のカンパを資金として建築購入され(右建物の敷地は日鉄運輸株式会社の所有)、以後支部の組合事務所及び備品として使用されて来たものであり、旧八幡支部所属組合員の総有に属するが、被申請人の全港湾脱退と同時に被申請人組合の占有使用するところとなり、申請人八幡支部はその占有を失つている。

以上認定した事実によれば、旧八幡支部は全港湾に独立性ある単位組合として組織加盟していたことが明らかであるから前示脱退決議に基く脱退通告により単位組合の組織体として有効に脱退したものであり、従つてまた脱退決議に反対している申請人八幡支部所属組合員も旧八幡支部の脱退と同時に一旦全港湾の組織を離れたものと認めるべきである。

確かに形式的にせよ個人加盟方式の単一組合においては支部の組織としての脱退決議は反対組合員にまでは効力を及ぼさないと考える余地がないではないけれども、元々旧八幡支部所属組合員は同支部に所属すると同時に全港湾に個人加盟するという二重の性格を有していたものであつて、全港湾から脱退する旨の支部決議は支部規約上旧八幡支部所属組合員を拘束すること前認定のとおりであるところからすれば、脱退決議に対し之に反対の組合員まで引さらつて脱退した効力を認めることも許されないものではない。

申請人らは全港湾が個人加盟方式の単一組合であるから支部単位の脱退は無効であると主張する。

成程全港湾が形式上昭和二四年五月の規約改正により個人加盟方式の組合に改組されたことは前認定のとおりであるけれども、その加入脱退の実態は必ずしも個人加盟方式をもつて統一されておらず、改組後も改組前の組合連合体の性格を強く残していたこと前示のとおりであり、特に旧八幡支部の支部規約では支部の「上位団体組織への加入、脱退」が明規され、同規約は全港湾の承認を得たものであるところ、右「上位団体」には申請人ら主張のいわゆる地区労、県連のみならず全港湾それ自体も含まれると解すべきが独立性ある支部規約の性格上相当であるから、仮令全港湾の規約が個人加盟方式一本に改正統一され、例外的な支部脱退の規定さえ存しない場合であつても、単位組合として加盟した旧八幡支部が単位組合として脱退することが許されないと解すべき理由はない。

更にまた申請人らは脱退を支部委員会の付議事項とする旨の規約改正は上部組織たる九州地方本部の承認を受けなければならない旨全港湾規約に明規されているに拘らずこれに違反した規約改正に基く脱退決議は無効である旨主張する。

然し乍ら、独立性ある支部がその規約を改正する場合において、上部組織の承認を要する旨の上部組織の規約を無視したとしても、上部組織からの統制、制裁を受けることあるは格別、規約改正そのものゝ効力に影響を来すものとは解せられないから、この点の申請人らの主張も失当である。

ところで申請人八幡支部所属の二六名は、脱退決議の前後を問わず、終始旧八幡支部の存続を主張し続けているのであるから、前示旧八幡支部の全港湾からの脱退と同時に旧八幡支部を集団脱退し、且つ全港湾に全員個人加盟し、新に全港湾八幡支部を結成したと認むべきであり、果して然らば、集団社会現象的には旧八幡支部は被申請人組合と被申請人八幡支部の二個の集団に分解されたものとみざるをえないのである。

然し乍ら一個の労働組合が数個の労働組合に法律上分裂して消滅することは労働法特有の現象として必ずしも否定すべき法概念とはいいがたいが、そのためには、少くとも実質的には分裂する組合員数が残留する組合員数を上廻り且つ多数決原理がその機能を停止して分裂以外に他に組合として活動する手段がない状況にあつて社会通念上残留組合員の集団に分裂前組合との同一性を肯定しがたい程度に組織上の質的変化が生じており、手続的には旧組合の消滅と新組合の結成に伴う財産関係及び組織関係の処理に必要な組合大会の開催或は之と同視しうべき客観的条件の存在が必要であると解すべきところ、之を本件についてみれば申請人八幡支部の集団は僅か二六名をもつて構成されるにすぎないのに対し脱退後日鉄運輸労働組合と名称を変更した被申請人組合は旧八幡支部と殆ど完全な同一性を保持し全港湾脱退前と同一な組合活動を継続していること前認定の事実に徴し疑う余地がないのであるから、旧八幡支部の分裂現象を目して法律上の分裂があつた場合とは到底認められず、右は単に事実上の分裂現象にすぎず、従つて申請人八幡支部は旧八幡支部からの集団脱退者以上の何者でもないといわざるをえない。

そうするとこれらの脱退組合員は当然には組合財産につき持分ないし分割の請求権を有するものでなく(最高裁判所昭和二七年(オ)第九六号昭和三二年一一月一四日判決)、旧八幡支部組合員の総有に属した別紙第一、第二各目録記載の建物備品の管理、使用につき、申請人八幡支部がなんらの権原を有する根拠はないのであつて、被申請人の占有を解くことを求める本件仮処分申請はその被保全権利を欠き失当という外ない。

また別紙第一、第二各目録記載の建物備品の管理、使用につき、申請人全港湾がなんらかの権原を有することを認むべき疎明は全くない。

よつて、本件仮処分申請はいずれもこれを却下すべく、申請費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり決定する。

(鍋山健 内園盛久 須山幸夫)

<別紙省略>

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